騙し絵の牙

今回の本は

 

塩田武士の「騙し絵の牙」。

 

騙し絵の牙 (角川文庫)

騙し絵の牙 (角川文庫)

 

 

2021年3月から全国で公開されている、大泉洋主演の映画「騙し絵の牙」の原作です。

 

この本…

 

一気読みしてしまいました 笑

 

 

ストーリーは、大手出版社の雑誌編集長をを勤める主人公が、デジタル化が進む現代に、紙の書籍・雑誌、特に小説の存続をかけて、奮闘していく物語。

いわゆる"社会派小説"という代物で、現代社会がさまざまな面で"変化の真っ最中"であることを印象付けられる作品です。

 

主人公の名前は"速水"。

軽快なトークと企画力・行動力に富んだ敏腕編集長。

社内外のあらゆる人から慕われ、あるいは羨望のまなざしを向けられる人物です。

 

小説を、その作者ごと大切にし、育てていきたい。

日の目を見ない多くの作品を、自分の力で何とか世に出したい。 

それは編集者だからこそできる、小説との付き合い方。

速水という編集長は、そんな風に描かれています。

 

物語は、ある大物作家の記念パーティーの場面から始まります。

このパーティの会場に出てくる多くの登場人物が、この物語が語られる中での重要な役割を果たしていくのです。

 

私は、出版業界に関して全くの素人ですが、丁寧な描写と登場人物たちのあり方のおかげで、先へ先へと本を読み進めていくことができました。

(なんせ一気読みしたくらいですから…笑)

 

………………

 

この本の魅力は、何といっても主人公が駆け抜ける

社会の中で生き、人から見える表の部分の"速水"と

その人物がもつ生きる意味とすら言える"背景"の色づかいのありよう。

 

物語の中の"社会"と読者が住む"社会"

主人公が生活する"社会"からは見えない主人公の背中を

文字を追うことで確かめていく読者と

 

その読者すら見ることのできない主人公の"人生"。

 

読み進めていくうちに、読者として、心震わせられるものがあります。

 

 

この小説から次のような言葉を感じました。

 

仕事

組織

繁栄

存続

創造

金儲け

権威

堕落

葛藤

上下

チーム

自由

性別

夫婦

親子

才能

意志

友情

生き様

育むもの

大切なもの

そして繰り返されるもの。

 

これってどれも、人が生み出すものなのかもしれませんね。

 

 

主人公にとって、小説を世に出すことは

どんなことがあってもやることになっている

決まっていること

 

与えられた使命のような、役割のようなもの

 

なのかもしれません。

 

 

 

あなたにとってのそれは、どんなことですか?

 そんな問いをもっておくのも、いいのかもしれません。

 

 

 

映画も楽しみです。

そこに工場がある限り

今回ご紹介する本は、

 小川洋子さんの「そこに工場がある限り」。 

 

そこに工場があるかぎり

そこに工場があるかぎり

  • 作者:小川 洋子
  • 発売日: 2021/01/26
  • メディア: 単行本
 

 

この本は、小さなころから"工場好き"だった小川さんが、工場見学で感じたことを記したエッセイ集です。

物書きである小川さんの工場見学、それだけで興味深いですよね。

 

魅力は何といっても、小川さんが書き記した言葉・表現を通して感じられる、工場やそこに携わる人たちの空気感や温度・湿度・肌触り、そして味わいではないでしょうか。

 

工場という場所にある、世の中の多くの人の日常を生み出す、職人たちの日常。

でも、わたしたちにとっては、非日常の世界ですよね。

知っているようで知らない世界。

その一場面を切り取って、味わい深い表現で届けてくれます。

 

思わず、登場した工場をググってみたりしちゃいましたよ。

それほど、その表現と工場に惹きつけられる本だと感じています。

 

 

少し、本文を引用して、その素敵な世界観を体感してみましょう。

 

~"穴"を創ることを生業としている工場、"細穴屋"のお話からの引用~

「細穴の奥は深い」より

 

「穴は基本中の基本です」社長は名言を口にされた。

まさにそうだ。何であれものを作るのに穴は欠かせない。………

100円ライター1個だって、穴なしでは作れない。

「王様の耳はロバの耳」という少年の声を受け止めるのも、死者を埋葬するのも、やはり穴である。

にもかかわらず普段、人々からはさして振り向いてもらえない。

それどころか靴下に穴があいたりすると大いに迷惑がられている。

何もない空洞。あるのにない。

穴とはもともと、主役にはなりきれない星のもとにうまれているのかもしれない。

 

ふと気づくと、金属に穴があきはじめている。

そもそもの目的がこれなのだから、驚く必要もないのに、なぜかとても不思議な現象を目にしている気分になる。

一点の窪みが少しずつ、慌てず慎重に、奥へ奥へと潜り込んでゆく。

電極と金属は一定の距離を保ち、決して触れ合わない。

電極の回転も、穴の形成も、想像よりずっとゆっくりしたスピードで行われる。

金属はまるでそれが自らの意思であるかのように、穴を受け入れている。

この密やかな営みを、火花が祝福している。

 

物を創ること、それ自体を一つの物語として、言葉を紡いでいく。

その物語も、さまざまな視点から描かれていて、読者をその世界の奥深くまで連れて行ってくれる。

そんな感覚にさせてくれます。

 

そして、小川さんが工場で感じたワクワクを、読者にも感じさせてくれる。

行ったことのない工場の世界と、私たちの身近な世界とつないでくれているようです。

 

小川さんの、深くやわらかい言葉・表現が、体の内側深くにスーッと染み込んでいく。

浸透していく。

そんな感覚にすらさせてくれる。

 

そんな表現で届けれくれるからこそ、わたしたちが小川さんと同じ体験をしているような感覚に、させてくれるのかもしれません。

 

さらに引用してみると…

 

一つの三角柱、一つの四角柱、一枚の板を前に、その人の目は穴をあけるべき一点にのみ注がれている。

「私がここに穴をあけない限り、飛行機は飛べ立てないのだ」などと驕った気持ちに惑わされたり、

「ああ、この部品が何万個も組み合わさってぴかぴかの自動車になるんだ」とうっとり自己陶酔に溺れたりもしない。

頭の中にあるのは一筋の穴、ただそれだけだ。

 

両手と視線と呼吸が一つながりになって、正しい位置を探っている。

どんなに針が振れようとも、金属はピクリとも動いているようには見えない。

人の目には映らないところで、密かに垂直の戦いが繰り広げられている。

正直、私はじりじりしてくる。

だいたいもう、そんなところでいいじゃありませんか、と叫びそうになる。

しかし技工士さんに一切の動揺はない。

頭で理屈をこねる間もなく、ごく自然に指先が反応していると分かる。

時折図面に視線を送りながら基点を探り出す表情は、見事に研ぎ澄まされている。

 

職人たちの、研ぎ澄まされた感覚が伝わってきます。

目の前にある"もの創り"一点への集中。

職人たちの息遣いや体温、その場の空気感。

読者ですら、そこに、その作業に集中してしまうような、そんな表現。

 

そこには、著者の職人たちへの敬意も含まれているのかもしれません。

 

……………………

 

今回は、穴を創ることを専門にしている工場を見学した場面を引用しました。

ほかにも、その味わいのある言葉たちが、たくさんの工場見学に連れて行ってくれます。

 

この本を一読すれば、小川さんと工場を訪れている感覚にさせてくれるかも、しれません。

何かが生まれるキーボード

お題「#新生活が捗る逸品」

今回はそんなテーマで、徒然なるままに、筆を走らせてみたいと思います。


私の生活を、新しくしてくれているもの、捗らせてくれている逸品。

それは、パソコンの外付け"キーボード"。

f:id:tabinohajimari:20210429100752j:plain


みなさんも、外付けかどうかは別として、

使っていらっしゃるかも知れませんね。


私はといえば、

これまで、ノートパソコンを使ってはいたけれど、

使うのは年賀状を作るときくらい。

(しかも、使うのは家族…笑)


でも、このブログを始めてから、なんとはなしに、外付けのキーボードを導入してみました。



キーボードって不思議ですよね。

たたくと、そこに言葉が生まれる。


画面に表示させているだけと言えばそれまでだけれど、

体から出てきた思いや感情、考え、調べた結果などを、世の中に表現するための、

"大切なツール"なのかも知れない。


音声だったり映像だったり、歌だったり踊りだったり…

自分を表現する方法は沢山あるし、これからも新しいものがどんどん出てくると思う。


だけと、今のところ、コミニュケーションのツールとして大きなウエイトを占める"言葉"を伝えるために、大切なもの。


それが、"キーボード"なんじゃないかな。


頭で考え出したもの、

体から湧き出てきたもの、

伝え聞いたもの、

調べたもの…。


何でもいいけれど、そこをたたくと、そこに何かが生まれる。


世の中に表現される。

行き渡る。


例え、そこに綴られた"言葉"を見る人が一人もいなくても、

世の中に表現されていることが、

その人にとっての表現であれば、

それって最高なんじゃないかな。


そんなものも生み出してくれるキーボード。


すごいやつだな…。


そりゃ、捗るわ(笑)

はじめまして

 みなさん、はじめまして。

ご覧いただき、ありがとうございます。

 

このブログのタイトルは、"本のすすめ"

 

わたくし、みうらが読んだ本の中から、"ちょっとこれいいな"と感じたものを、ちょこちょこご紹介していくブログです。

 

第1回目は、私がこのブログを始めたきっかけについて、少し…お話ししてみたいと思います。

 

・・・・・・・・・・・・

 

このブログを始めたきっかけの一つ、それは、 

私が本の"ちょこっと愛好家"であるということ。

 

1ヶ月に何十冊と読むわけではありませんが、ふらふら~と本屋に立ち寄り、そこで過ごす時間が好きで、へたする何時間も過ごすことも。

 

 

本って、一冊一冊、著者がいろいろな調べものをしたり、著者自身の中から生まれた言葉を紡いだりしてできた、いわば"著者の分身"。

 

その本が、所狭しと並べられた、本屋さんの趣向を凝らして並べられた本たち。

本屋さんって、人が生んだ言葉たちの宝島のような感覚があるんです。

 

きらきらしたものから、人間臭いもの、憎悪にあふれたものまで(笑)。

いろんな本が置いてある。

いろんな人と出会えるともいえる。

 

本屋さんっていいですよね。

(ちなみに、今流行りの電子書籍よりも、本を手にして、その重みや手触りを感じながら、ページをめくりながら読む方が、わたしは好きですね。)

 

もちろん、そこに並べられた本たちも。

 

ちょっと話がそれましたが、そんなこんなで、わたしが本のちょこっと愛好家であることが、このブログを始めたきっかけの一つです。

 

そして、もう一つ。

 

自分が感じたことを、世の中に表現してみたいと思ったんです。

 

自分で感じること、感じたことを表現することを、なかなかしてこなかったなあ、なんて感じる今日この頃でしたので、思い切って、ブログという形で世の中に表現してみようかと考えたのです。

 

そんなこんなで始めたブログですが、個人的には、なかなか慣れないことをしているのですが、少しずつでも、更新していきたいと思います。

 

どうぞよろしくお願いします。

 

それでは次回から、私がおすすめする本について、お伝えしていこうと思います。

 

それでは、またお会いしましょう!